こんにちは、みやこです。
先月から読みはじめた上橋菜穂子さんの「鹿の王」を読み終えました。
久々の長編ファンタジー小説でしたが、面白くて一気読み。
※これ以降、小説の内容に触れておりますのでご注意ください。
本作は2015年の本屋大賞受賞作品で、2021年にアニメ映画化もしている人気シリーズです。
上橋菜穂子さんは「守り人」シリーズや「獣の奏者」で有名なファンタジー作家さんですが、私は「鹿の王」で初めて上橋さんの作品に触れました。
上橋さんが文化人類学者ということもあって、民族同士の関係性や歴史などの作り込みが丁寧で、1巻からその世界観にのめり込みました。情報量が多くて読み応えのあるお話で、上橋さんの情報収集力と、それを物語に分かりやすく組み込む表現力に圧倒されました。
このお話には主人公が2人いるのですが、1人は<独角>の元リーダーで東乎瑠軍に敗れたために奴隷として岩塩鉱で働くヴァン。もう1人は、今はなきオタワル王国の末裔で若くて才能のある医術師のホッサル
謎の病<黒狼熱>に罹らなかったヴァンと、<黒狼熱>の治療法を探すホッサルの視点が切り替わりながらお話が進んでいきます。
ヴァンがメインの主人公ではあるのですが、私はホッサル視点のお話が興味深かったです。彼は物語を通して<黒狼熱>の治療法を探しながら、医療とはどうあるべきなのか、ということを考え続けます。彼や他の医術師の考えに触れることで、私自身も今では受けられることが当たり前になっている医療の在り方について考えるきっかけになりました。
ホッサルは今はなきオタワル王国の末裔です。オタワル人は医術や土木技術に優れており、豊かな生活を送っていたのですが、謎の病が流行したことで多くの人が亡くなり衰退してしまいます。疫病の被害を受けなかったアカファ地方の都市に王都を移してアカファに統治権を譲り、オタワルの貴人たちは山々に囲まれた<オタワル聖領>を築いて医術などの技術を磨いていました。
特に、オタワル医術は大変優れており、ホッサルと祖父のリムエッルが、アカファを征服した東乎瑠帝国の皇帝の妃を病から救ったことで、オタワル医術は東乎瑠内でも重宝されるようになります。
しかし、東乎瑠帝国では清心教医術が主流です。清心教医術は名前の通り宗教が大きく関わっており、動物から作り出された薬などを身体に入れると穢れてしまい、死後安らかに過ごすことができないと考えられています。身体に穢れを入れるくらいなら、治らない病は諦めて、安らかにあの世へ行けるように魂を救うことを主としています。
治療法が存在しているのに、助かる命を見捨ててしまうことをホッサルは理解できません。しかし、清心教医術の考え方で救われる人たちもいます。
物語の中で、清心教の祭司医が<黒狼熱>で亡くなった東乎瑠人の家族に語りかけるシーンがあるのですが、祭司医は、亡くなった人の魂は救われた、と彼らに語り、それを聞いた家族は泣きながら安堵の表情を見せます。
このシーンを読んで、私たちの世界でも、国や民族や宗教によって医療の考え方も違い、何を正解と思うかは人それぞれなのだな、と思いました。
例えば、ロシアでは運命論という考え方があるようで、病気などで死ぬのは1つの運命のため、人工的なワクチンを身体に入れるくらいならコロナに罹った方がマシだと思う人もいるようです。この考え方は東乎瑠帝国の清心教医術と似ているな、と思いました。
「鹿の王」のその後のストーリーである「鹿の王 水底の橋」では、清心教医術とオタワル医術についてメインで描かれています。
物語の終わりに、ホッサルはオタワル医術を究めることを決意し、ホッサルの助手で恋人のミラルは清心教医術について学ぶことを決意します。
清心教医術では、オタワル医術で助かる命でも、穢れるのを避けるために命は諦めて魂を救うことを優先する。国や民族などによって考え方は違うので、いろいろな考え方を受け入れる必要はあるのですが、私はホッサルと同じようにその考え方に受け入れがたさを感じました。
しかし、受け入れず、これが正しいと考えを押し付けても何も変わりません。なので、ミラルのように両方の医術を受け入れて、よりよい方法を模索することが、あるべき「医療」の姿なのかもしれないなと思いました。
「病気は神と関係ないから結びつけるのは危険ではないか?」と読みながら思いましたが、もともとの医療の発端は呪術だと思うと、切り話すのも難しいのかもしれないですね。やはり、どちらかが正しいとするのではなく、ミラルのような存在がよりよい未来を切り開いていくのかなと思います。
「鹿の王」を読む前は「医療は人の命を助けるもの」でそれが当たり前という認識しかありませんでした。
物語を通して「医療」のいろんな考え方を教えてくれた上橋さんに感謝です。
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みやこ